第18章 鈍感
「ああ、もう!分からねぇならいい!」
「ちょっと!」
そう言って彼は階下へ行ってしまった。私、一応怪我人なんだけど。いや、別に歩けるけども。
ややあって入れ替わるようにエルザがやって来て、私に付いていてくれた。
「リア、グレイに何かしたのか?」
「分からないけど、何か怒ってたね。」
「ふむ。何なのだ一体。」
盗賊どもを無事引き渡して宿に戻るまでの間、グレイとは一切口をきかなかった。そんな私たちの様子に目ざとく築いたルーシィが温泉で私に言う。
「リア、グレイが何で怒ってるか分からないの?」
「知らないわよ。」
「その背中の怪我のせいじゃない?」
「私が怪我をしたのにどうしてグレイが怒るわけ?」
溜息をつくルーシィに何よ、と言いながら私は風呂場の鏡越しに自身の背中を見る。右肩から大きく斜めに走る刀傷。傷は完全に塞がっていて、時折突っ張るような感じはするものの、痛みはほとんどなかった。
まだゆっくり浸かっているルーシィ達をおいて、先に風呂から上がって部屋への道を歩いていると観光客らしき男性2人組に声を掛けられた。
「おねーさん、今ヒマ?」
「あそこのバーで飲まない?奢るからさ。」
これはまた、典型的なナンパだこと…。そう思いながら無視して通り過ぎる。
「ちょっとちょっと。」
「待ちなって。」
ぐいと強く右腕を引かれ、背中の傷が引き攣ることで痛みを感じた。一言言ってやろうとした時、辺りにひやりと冷気が満ちた。
「何してんだてめぇら?」
「あ?んだヨ、てめぇ。」
「オイ、やめとけ!こいつ妖精の尻尾のグレイ・フルバスターだ。行くぞ!!」
そう言って二人組はさっさと行ってしまった。後に残されたのは不機嫌な造形魔導士だけ。
「何ですぐ助けを呼ばねェ。」
「あの程度の人たち相手に助けなんて要らないでしょ。」
「背中痛がってたろ。」
そう言って無遠慮に背中に掌を這わせてくる。薄い浴衣越しに彼の手の温度を感じた。冷たいのだろうと思っていた掌の熱さに驚いて、肩が僅かに強張った。それを感じ取って彼は眉間の皺を更に深くする。
「ホラ、痛ェんじゃねぇか。」
「違う…これは、びっくりしたの。」
「…?とにかく、部屋戻るぞ。」
「うん。」
背中の掌が離れ、彼は先に進んで行く。