第18章 鈍感
部屋に着くなり彼は私の両肩を掴んで私に向き合った。
「な、なに!?」
「この際だからはっきり言うぞ。」
「まだ背中の傷のこと怒ってるの?お説教はもう十分よ。」
「違ェよ!…お前、俺がなんで怒ってたと思う?」
「知らないわよ、そんなの!」
「お前の体に傷が残るからだって。」
「そんなことあなたに関係あるの?」
「ここまで言っても分からねェのか。」
「…??」
ますます意味が分からない。こんなの私が怪我をした時の説明となんら変わらないではないか。
私が理解できていないことを悟ったらしく、グレイは深く溜息をついた。私の肩にあった手がするりと背中全体に回されて体を絡めとられる。突然の触れ合いに固まった私を差し置いて肩口に黒い頭が乗った。
そして―
「…惚れた女の身体を傷つけられて黙ってられるかよ。」
「え…。」
鎖骨に落ちた低く小さい声。
「…。」
「…。」
「…オイ。何とか言えよ。」
「…そんな、直球で来ると思わなくて。」
「こうでもしねぇとお前には伝わらねぇだろうが。」
「グレイ。」
「んだよ。」
「私も同じ気持ちだよ。」
「…なにィ!?」
「フフ、私も好きだよ、グレイのこと。」
切れ長の目が見開かれる。間抜けな顔が面白くて笑ってしまう。そんな私にムッとしたのか、彼は眉間に皺を寄せてこちらを睨みつける。
私の腰を抱いたまま近い距離で行われるそんなやり取りがむずかゆくて、なんとなく私は先に目を逸らしてしまう。
途端に首筋に走るチクリとした刺激。
「ーなっ!こんなとこに!」
「余裕ぶっこいてるからだろ。」
今度は私の眼が見開かれる番だった。服では隠れない場所についているだろう所有印をいたずらに成功した子供みたいに眺める彼。
翌日、目ざとくルーシィがその痕を見つけてこれまた楽しそうにしていた。