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フェアリーテイル 【短編集】

第21章 貴方にだけ


 どうやら朝から何も食べておらず、薬も家にはなかったらしい。
 買ってきたトマトと冷蔵庫に入っていた卵、玉ねぎで適当にスープを作る。そして置いてあったハードパンを千切って中に入れ、ふやかしたところにパセリを散らす。その間フロッシュにはローグに飲み物を持って行ってもらい、熱を下げるために濡らしたタオルを準備してもらった。

「はい、食べたら薬飲んでね。」
「ありがとう。…随分手際が良いんだな。」
「そりゃ、女の一人暮らしだからね。料理は嫌いじゃないし。」
「そうか。」

 美味い、と言いながら完食してくれるのはやはり嬉しいものだ。食べ終わったお皿の洗い物を終えて薬を飲んだのを見届けたので帰ろうと荷物を纏め始めた。

「え…?なんか凄い雨降ってない?」
「ほんとだぁ~。」
「雨が止むまで、ここに居ればいいだろう。」
「そうね…。そうさせてもらうわ。」

 ローグはどうやら眠たくないそうで、熱のせいで少し饒舌になっているのか色んな話をしてくれた。フロッシュはいつの間にか私の膝の上で気持ちよさそうに寝息を立てている。そんなフロッシュを自分のベットに戻してやり、ローグのベットの脇を通りかかった時、手を掴まれた。

「どうしたの?」
「いや、何でもないんだが…。」
「?」

 そう言いながらも掴んだ手はそのままで、何だかこちらが気恥ずかしくなってくる。顔が酷く熱いのは風邪が移った所為などではない。

「リアは、いつも優しい。」
「え?」
「他の男にもそうなのだろうか。」

 漆黒の眼に囚われてしまって彼から目が離せない。多分、いや絶対に、ローグじゃなかったら家にまで押しかけてこない。

「…違うよ。」
「!それは…、俺を好きだと捉えて構わないのか。」
「…ッ!」

 やっと彼の眼から視線を外して、縮こまって小さく頷いた。その瞬間、ぐんっと掴まれていた手を引かれてベットに腰かけていた彼の胸に飛び込む形になった。

「リア、好きだ。」

 さっきよりも断然近くで聞こえた彼の声に心臓が躍る。口から心臓が出そうになりながらも必死に私の想いを口に出した。

「私もだよ、ローグ。」

 私の口を大きな掌で塞いでその上に口付けを一つ落とした彼は、私が見たことのない意地悪な顔をして、続きは風邪が治ってからだと言って笑った。







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