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フェアリーテイル 【短編集】

第15章 待ち人


「フン、話にならないね。帰んな。」
「そうか、残念だ。」

 そう言って周りに毒霧を充満させていく。周囲の数少ない客やマスターが逃げ出す中、女はゆったりと立ち上がって言い放った。

「はぁ、つまらないことをするんじゃないよ。」
「俺の情報も持ってるなら、これが猛毒だってことも知ってるはずだ。なぜ平然としてやがる?」
「知ってるさ。脅威じゃないのに慌てる必要がどこにあるんだい?私はもう行くよ。」

 そんな言葉を交わし合っている間にも毒は女の皮膚や口、鼻からどんどん体内に入って行ってるはずだ。しかし女の顔色は変わらない。
 女は俺に背を向けるとああ、と思い出したかのように言った。

「アンタ、私をただの情報屋やってる女だと思ったんだろう?一つ教えといてやるよ。私はね、タダで情報を渡したことはないんだ、今までに一度もね。」

 そう言って女が歩き出す。無論、そのまま逃がすつもりはなく右手に毒を纏った瞬間、女の動きが”聞こえた”。

「ぐぉっ!!」

 頭上から数えきれないほどの”落石”にあった。もちろん、ここは町のど真ん中で落石などあるはずもない。しかも岩の1つ1つがとんでもない硬さだった。俺の力でもすぐに砕くのが容易ではないくらいに。しかも酒場が破壊されるほどの広範囲に攻撃を仕掛けてきやがった。俺の能力などハナから知ってたって具合に。

 落石がおさまった時には女の姿はどこにもなかった。

「面白れぇ女だ。」

 久々にこんな高揚感を覚えた。

―『タダで情報を渡したことはないんだ、今までに一度もね。』

 つまり、いくつもの闇ギルドが点在するこの地域でそういった男どもを何人も返り討ちにしてきたってわけだ。

「生憎、匂いはしっかり残ってんだ。逃がさねぇぞ。」

 もはや目的の情報などどうでもよかった。そのまま数日間女と俺の鬼ごっこが始まって、いつしかそれが日常になっていった。

「アンタもなかなかしつこいらしい。」
「そう思うならとっとと捕まれ、リア。」
「何時もならとっくにぶちのめしてるのに、アンタ相手じゃ逃げ回るのが精一杯だわ。」
「そいつは光栄だな。」
「何でったって私にそこまで執着するわけ。欲しかった情報はとっくに渡したろう?」
「さぁな。」
「答える気はないってのかい。」





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