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フェアリーテイル 【短編集】

第15章 待ち人


「エリック、良いお知らせなんだゾ。」
「あぁ?んだよ?」
「これ、だーれだ!」
「ブフォッ!」

 飲んでいた酒を盛大にぶちまけるほど驚いたのは、当然のことだ。向かいで飲んでいた酒まみれのマクベスが青筋を立てているのは最早眼中になかった。

 目の前に突き付けられたのは魔導士の特集を組んだ雑誌。その中にあったのは『無所属の賞金稼ぎリアの秘密に迫る!!』と大きくつけられた見出しと隠し撮りをされたのだろう、こちらを振り向くピントの合っていない、俺のよく知る女だった。

「ふふーん、エリックのぞっこんな女の子だゾ。」
「…エリックが?」
「そりぁ、初耳だな。」
「エリックにも愛はあるのデスネ!」
「うるせぇぞ。」

 こいつは元情報屋だ、それも凄腕の。俺は雑誌に移る変わらないその姿を見ながら、アイツに初めて会った時のことを思い出していた。


 確か、依頼の遂行のためにとある情報が入用になって、寂れた酒場のマスターに聞き込みをしてた。

「ああ、俺はそんな情報持ってねぇが、アイツなら持ってるかもな。」
「アイツ?」
「ああ、あの奥に座ってるやつさ。」

 チラリと酒場の奥の席に目をやるとフードを目深に被った奴が食事をしていた。
 つかつかとその席に歩み寄って声をかける。

「オイ、情報屋ってのはお前か?」

 ゆっくりとこちらを向いたその顔を見て驚いた。男とはまるで違う細い顎、長い睫に縁どられた切れ長の目、そして赤い唇に特徴的な口元の黒子。
 どう見ても、娼館に居そうな顔の造形の女だった。俺は不覚にも次の言葉が紡げずにいた。すると女の口が開いて―

「何だい、お兄さん?」

 女にしては想像していたよりも低い声、しかしその低音は決して不愉快なものではなかった。むしろ…

「聞いてるのかい?何の用だって。」

 はっと我に返って本来の目的を思い出す。

「情報が欲しい。」

 そう言って一枚のメモを取り出して机に置く。女はそれに視線を移して再度こちらを見た。

「アンタ、毒竜のコブラだね。」
「だったらなんだ。」
「いや、何でもないよ。ちょっとした興味さ。で、いくら払うんだい?」
「てめえの命分だ。」
「…なんだって?」
「殺さねぇでおいてやるってんだよ。」

 女の双眸がすっと細められた。











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