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souvenir《ジョジョの奇妙な冒険》

第3章 飲んでも呑まれるなとは言うけれど。【ナランチャ】


○○○


「ナランチャ、好きよ。世界で一番よ。貴方と出会う前の生活を私は忘れてしまったわ。それぐらい貴方に惚れているのよ」

「それは男が女に言う口説き文句だぜ…」

「言ってくれるの?!」

「言わねェよ。ったく、何でそうなるんだよ」

飲み屋街を抜け、彼女のアパルトメントがある住宅街に入っても尚うわ言のように繰り返される告白に、ナランチャは一人悶々としていた。彼は色恋沙汰への興味は薄いが、本命の女にこうも言い寄られては意識するなと言う方が無理だった。

「…なァ、はどうしてオレなんだよ」

「んーー……ふふ、何ででしょう」

ヨロヨロと彼に身体を預けながら、要領を得ない回答を繰り返す彼女に、ナランチャは本日何度目かのため息を吐いた。

「酔っ払いに聞いたオレがバカだったよ」

彼は彼女との会話を諦め、アパルトメントの階段を登って三階にある部屋の前まで着くと、植木鉢の下に隠してある合鍵を使って玄関の扉を開けた。手探りで部屋の電気を付けると、パチンという音と共にぼんやりと温かなオレンジが灯される。酩酊した彼女を何度も送る内に、恋人でもないのに部屋の勝手を理解している自分が嫌になった。

彼は彼女をベッドに寝かせると、水を入れるためキッチンへと向かった。女の部屋にしては些か簡素過ぎるこの部屋には、必要最低限のものしか置かれていない。年季の入ったシングルベッド、一人分の食器が一式と、申し訳程度に部屋の隅に置かれた赤リップ。彼女は料理をしないので冷蔵庫は常に伽藍堂で、もちろん調理器具もなかった。

そんな彼女が最近買った赤のレコードプレーヤーは、この無機質な部屋の中で一際大きな存在感を放っていた。これは以前、ナランチャと彼女が休日に赴いたレコードショップで購入したものだ。彼女は音楽を聴く方ではなかったが、ナランチャが音楽好きだと知ってからはよく聴くようになった。棚にはトゥー・バックのアルバムが二枚と、スヌープ・ドッグのアルバムが一枚だけ置かれてある。どちらも彼が大好きなアーティストだ。
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