第3章 飲んでも呑まれるなとは言うけれど。【ナランチャ】
「でも水はちゃんと飲むんですね」とフーゴが心底面倒くさそうに言えば「フーゴだって酒乱のくせにぃ!!」と今度は今にも泣きそうな声で怒鳴るのだから迷惑極まりない。
「僕は自分の酒癖を理解しているから、飲む量をコントロールできるんです。アンタと違って、人に迷惑をかけるような真似はしない」
「私は迷惑なんて掛けていないし、酔ってもないわよッ」
「酒飲みはみんなそう言うんです」
「うっ……ナランチャ〜〜フーゴが虐めてくる〜〜〜ッ!!」
あっさりと言い負かされた彼女は下手くそな嘘泣きをしてみせると、ナランチャの腕に自身の腕を絡ませた。そして彼の肩に顔を埋めたきり、ピクリとも動かなくなった。拗ねているのかどさくさに紛れてナランチャに抱きつきたいだけなのか、どちらかと問われれば考えるまでもなく後者だろう、とフーゴは思った。
「はぁ…おいナランチャ、この女なんとかしろよ」
「できたらとっくにしてるよ」
フーゴの辛辣な指摘に、ナランチャは苦い顔をして言った。本来なら、いつもは彼女を制止するアバッキオとブチャラティがいるばすなのだが、生憎今日に限って不在だった。二人は二人で、別の任務があるのだから仕方の無いことではあるが___それにしても今日の彼女の酔い方は酷かった。
「なァ、離れろって」
口ではそういうものの、ナランチャは彼の腕に抱きついたまま頑なに離れようとしない彼女を、振り払うようなことはしなかった。彼の煮え切らない態度を見て、何を思ったのかミスタはおもむろに口を開いた。
「けどよォ〜、こいつが酔った時に口説くのは決まってお前だけじゃあねェか。つまり、お前がの告白を受け入れたら解決する話なんじゃあねェの?」
お前だってこいつに惚れてんだろ、喉まで出かかった言葉をミスタはすんでのところで飲み込んだ。そんなことは誰に言われるでもなく、ナランチャ自身がよく分かっているはずなのだ。
「…それって反則みたいでなんか嫌だよ。嫌な気分だ。なんつーのかなァ、こいつが酔ってるのに託けて返事するのは、ズルい気がするんだよ」
「焦れったいな、早く告白すればいいじゃあないか。がシラフのときだってチャンスは幾らでもあったはずだろ」
「確かにあったけどよォ___」