第11章 最終決戦
震える脚を叱咤して前に進む。嘆き悲しむのは今じゃないはずだ。まだ戦っている人が居る。なら、私に出来ることは…
「よせ、クレア…!」
「―水竜の加護‼」
ここに居る全員の身体を覆うように透明な球体が現れる。体内存在していたはずの魔力が失われていく。
球体が現れたことを確認して私は意識を手放した。
―ごめんね、ラクサス。
私の名前を呼んでいるのだろうあの人の声は、私には届かなかった。
―クレアが纏う魔力の変化をいち早く察知してあいつが何をしようとしているのかが分かった。あの魔法はジジイと同じ特性を持ってたはずだ。加護する人数が多いほど魔力の消費量が激しく、俺を含むこの人数を加護したあいつは案の定意識を失った。崩れていくあいつの身体を支えた手は、情けねぇほど震えた。
―俺は、結局ジジイにもクレアにも守られちまった。
―妹を奪った評議員の役員どもが憎かった。正義の皮を被った悪魔を、どうしても許せなかった。何より、妹を護れなかった自分が憎かった。絶望と復讐に取り憑かれた私を救ったのは、妖精の尻尾だった。
復讐のための力は次第に家族を守る力になった。無くしてしまいたくなかった。私は、家族を守れたのだろうか。私を呼ぶ声が聞こえる。
―戻らないと。みんなが悲しむから。
あれほど焦がれた妹の姿はもう、どこにもなかった。
とく、とく、と優しい鼓動が聞こえた。次第に全身の感覚が戻ってくる。
「…らく、さす。」
「ばかやろう、お前まで…!」
「だいじょうぶ。私は、戻って来たわ。」
「当たり前だ。」
力の抜けた私とマスターを、一人で抱えるのはどんなに重たかっただろう。立ち上がるために手を置いた肩は、彼らしくなく僅かに震えていた気がした。
ふと、ギルドの建物のある方向から一陣の風が吹いた。その風に触れた体に魔力が戻る。
「…初代…?」
何故だかわからないけれど、涙が溢れた。
「…不思議な、夢を見た。」
「マスター…!」
マスターは夢を見たという。
白い少女と漆黒の青年の、一なる魔法の夢を。
ラクサスはそれはもう、泣きに泣いた。あんなに泣いている彼を見るのは後にも先にもこれが最後だった。