第13章 【番外編】 大好きな貴方に
彼とお風呂に入ったが最後、無事ではいられないことは分かっているのでニヤつくラクサスをさっさと風呂場に押し込める。
交代で私もシャワーを済ませ、リビングに戻ると彼はウイスキーを用意して待っていた。
「おつまみ要らないの?」
「あァ、要らねぇ。そんなに飲むつもりはねェからな。」
「へぇ、珍しい。」
水のようにお酒を飲んでいく彼にしては珍しい。冷凍庫から出したブロックの氷を砕いて器に入れ、彼の元へと持っていく。彼は慣れた手つきでウイスキーボトルを開け、琥珀色の液体を氷の入ったグラスに注いだ。
「お前は要らねえのか。」
「うーん、ラクサスのを一口だけ貰うわ。」
「ロックだぞ。」
「一口だけだもの。」
私がボトルのラベルを眺めている間、隣で氷とグラスがぶつかる音と彼の喉がなる音が響く。ややあってグラスから口を離した彼は私にそれを差し出した。
ほんの少し口に含んだだけで分かる強いアルコールに思わず顔を顰めた。隣で彼が喉を鳴らして笑う。
「美味しくないわ。」
「酒が苦手な奴にウイスキーは向いてねェだろうな。」
「ラクサスは美味しいって思うの?これ。」
「まァな。」
「ふーん。」
「…ありがとな。」
グラスを彼に渡そうとしている手が絡め取られてぽつりと彼が呟いた。
「どういたしまして。」
そのまま空いている方の手でグラスを取り去り、一気に呷った彼はグラスをテーブルに置くと私を抱き上げた。
「うわっ!」
突然の浮遊感に慌てて彼の首に腕を回して体を安定させる。彼に抗議の眼を向けるもそれは笑って一蹴されただけで、私も諦めて額合わせて彼に囁いた。
「誕生日おめでとう、ラクサス。」
「あァ。」
そのまま重なった唇からはふわりとアルコールの匂いがしたが、気にならなかった。器用に片手だけで私を抱き上げたまま項を這う掌に体が熱くなる。
「…いいか?」
熱を孕んだ彼の問いかけにこくりと頷くのが精一杯だった。
多分明日はギルドに顔を出せなくて、明後日にはエバやルーシィに揶揄われる。三日後にはいつも通りに仕事に行って、また此処に戻ってくる。
そうやって何時までも彼と歩んでいけたらと思う。