第9章 懺悔
赫い雷は、家族の敵を焼いた。
彼は再三言い聞かされていた無茶をしないという恋人との約束を、守れなかったことを悔やむ。多分彼女は躰を侵す魔障粒子を感知して眉を吊り上げて怒るに違いない。果たして、どうやって宥めたものか。
ふと、彼女の安否が不安になった。そっと耳元の水晶に触れる。なぜか、彼女が呼んでいる気がした。
「…クレア?」
顔を含めた身体の右半分を覆う冷気で目が覚めた。私は確か、魔障粒子に侵されて…
「う”…。」
気管支が痙攣してその度に喉が酷く痛む。息を吸うために収縮する肺の動きですらも痛い。
しかもブラッドマンという者、呪力の使い手だ。脳裏に忌々しい記憶がちらつく。その記憶を無理やり消し去って他のことに思考を移す。
ユキノや他のみんなはどうなったのだろう。私が地に伏した瞬間の喧騒は今や成りを潜めていて、あたりには静寂が満ちていた。
幸い、まだ魔力はある。徐々に体内の魔障粒子を浄化していく。このままもう少しじっとしていれば、大丈夫だろう。
肺の痛みと喉の痛みが治まってきた頃、私は木の幹にもたれかかっていた体を起こしながら仲間を探すことにした。
いくらかも進まない内に木々の間から雪を踏みしめてこちらに向かってくる足音がする。私はじっと奥を警戒した。一人分の足音しかないということは、少なくとも私の探している人たちではないということだ。
足音が止まると同時に私の正面に黒いマントを被った小柄な人物が立つ形になる。10メートルは離れているだろうか。注意深くその人物の魔力を探った途端、世界中の音が消えてしまったかのような感覚になる。
心臓の音のみが響き、速まる鼓動とは対照的に血液が送られていないかのように四肢が冷たくなっていく。
―まさかそんな、
「レティ…。」
掠れる声で呟いた音は、果たして10メートル先の人物に届いたのだろうか。僅かに見える口元が、嗤った気がした。