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フェアリーテイル 【雷竜と漆黒】 完結

第9章 懺悔


 木々の合間に目的の人物の一人を見つけて私は声を掛けようとする。

「ユキ…」
「ユキノ―!逃げろ、人が…!」

 彼女が呆然と死神…と呟くのが見えた。その先に音もなく現れた死の匂いを纏わせた男。あれが、皇帝を守る盾の一角。情報が少なく、彼がどのような魔法を使うのかもわかっていない。迂闊に手は出せない。幸いこの混乱の騒音に紛れていて私には気付いていないようだ。

 死神の口が弧を描いて目がユキノを捉えた。まさか、彼は。脳裏に外傷もなく吐血した仲間たちが浮かんだ。足に水を纏わせて発射し、ユキノとの距離を一気に詰めて彼女を弾き飛ばした。

「ユキノ!!」
「クレア様!?」

 死の霧が体内を侵す。ああ、いけない。早まってしまった。魔障粒子を浄化できる私が感情に身を任せて動いてしまうとは。

 ごぼ、と口を鮮血が汚す。うまく息を吸えない。滅竜魔導士の特殊な肺をもこれほど侵すとは。彼女がこれを吸い込んでいなくてよかった。

 冥府の門で見た大切な人たちの苦しそうな顔と、同じ顔をもうして欲しくなかった。
 クレア様と私を呼ぶ声が遠くに聞こえる。とうとう私は膝を折った。自分は危機的な状況のはずなのに、なぜか彼の身が無性に気にかかった。彼が、無茶をしているような気がして。

―ラクサス…。

「滅竜魔導士を侵すのは2人目だな。」

 死神が呟いた言葉は既に意識を失った私には届かなかった。


 明くる日、ハルジオンの奪還作戦が再開された。とある建物の屋根に天気に似つかわぬ落雷が発生した。無論屋根に居た人物は落雷を伴った拳をもろに受ける。

 雷を纏った竜は、仲間の仇を討つために戦った。男の身体を分析し終えたワールは目を見開く。

「お前、その身体…内臓が。ブラッドマンの仕業か?すげぇな、どうやって生きてんだ。」
「どうやって生きてるかじゃねぇ、どう生きるかだ!!」

 冥府の門との戦いではクレアに浄化してもらい、何とか事なきを得たが、昨日の戦闘で魔障粒子を含んだ魔結晶爆弾を持った敵から味方を庇ったのだ。幸い、その魔結晶爆弾は大変希少なもので、ラクサスが庇ったものが唯一のものだったが、かなりの濃度を吸い込んだため内臓にかなりのダメージを負ってしまった。

 ―それでも俺には、護りたいものがあるんだ。










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