第9章 懺悔
これはまさしく乱闘だ。
倒しても倒しても減らない敵に着々と精神が削がれていくのが分かる。
―いつまで、続くの?
そんな思いを打ち消すように頭を振って、私は腕に纏わせた水流の圧力を強めた。なるべく敵兵を傷つけないように戦っていたが、そうもいかないようだ。いつもみたいにちょっと衝撃を与えるだけではだめだ。
”戦闘不能”にしないと。
それと同時に私の隣で戦闘中の金色のトビカガチにも声をかける。
「トビカガチ!毒針を使って!」
金色の蛇のような目がぎょろりとこちらを向き、彼は私が”水”になったことを確認してその巨体に似つかわしくないほどの速さで跳躍し、砂埃を巻き上げた。そして空中で体を捻ると同時に尻尾を薙ぎ払うように回転させる。
彼が着地したころには周囲5メートルほどの敵兵は地に伏していた。
彼の尻尾には猛毒が含まれていて、その毒が尻尾の攻撃で体内に入れば死は免れない。今回は彼の尻尾が直接攻撃を仕掛けたわけではなく、微細な毒針を介して少量を飛ばしただけなので死に至ることはないはずだ。それでも3日間ほどは満足に動けないだろうが。
その後も彼と私で周囲の敵を一掃し続けた。私の戦闘は周囲に味方がいない方が良い。モンスター達は総じて体が大きく、広範囲での攻撃をするため味方を巻き込んでしまう可能性があるのだ。
そろそろこの辺はいいかな…。
そう思ってトビカガチを送還し、確か近場で戦っていた剣咬の虎と青い天馬のみんなと合流しようと森の中を進んでいく。
さくさくと白い大地に足跡を付けて歩みを進めていくと、倒れている仲間を見つけた。恐らく剣咬の虎のメンバーだろう。はっとして駆け寄る。
「どうしたの!?大丈夫!?」
「ゴハッ…。」
外傷は見当たらないが、吐血している。余程の衝撃が肺か内臓に加わったのだろうか。私にはどうすることもできなかった。でもそれにしては周りの木々が折れてもいないし、どこか地面に叩きつけられた痕跡もない。そして周りには強大な魔力の残滓がある。恐らく、
「スプリガン12…。」
白い雪の上に散った血痕はどんどんその紅さを増している。吐血が新しい証拠だ。つまり、この先に敵が居る。