第7章 再び
「一夜さん…。どうしてここに。」
「クレア君、忘れ物だ。」
「え?」
青い天馬のギルドの中には何も私物は置いていなかったはずだけど…忘れ物?
「これを。」
「…。これは、香水?」
「君との別れに私が調合したものだ。是非つけてくれたまえ。」
やたらと煌びやかに飾り付けられた香水瓶を渡される。蓋を開けていないのに甘い香りが漂う。匂いのきついものはモンスター達が嫌がるからつけないんだけど…部屋に飾っておこう。
「あ、ありがとう…。」
「ところで、困っているようだね?西の大陸へ向かうのなら、クリスティーナで行こうではないか!」
「ええ!?」
「…いいのか?」
「短い間とはいえ、同じギルドに居た者同士だ!ともにマカロフ氏を救おうではないか!」
「一夜さん…ありがとう。」
確かに、天馬が誇る飛行艇ならば滅竜魔導士専用に改良済みなので酔う心配もないし、その名に恥じない速さで空を駆けてくれる。こちらからすればとても有難い話だ。
「それでは、我々の家族を迎えに行こうではないか!!!メェーン!!」
「いいとこだけ持っていきやがって…」
「まぁ、いいじゃないガジル。」
なんだかんだで、いい人なのだ。一夜さんは。性格に難はあるが。
掌の香水瓶の中身が僅かにちゃぷと音を立てた。
「…それ、」
「ん?」
「つけるのか。」
飛空艇の中でラクサスが私の手にある香水に目線を向ける。
「そうねぇ、モンスター達が嫌がるからあんまりつけないけど休日くらいはいいかもね。」
「…気に入らねぇ、その匂い。」
「ちょっと強いかもね。」
「…違う、他の野郎の匂いだ。」
「…え?」
ぼそりと私にだけ聞こえる声量でそれだけ告げると、彼は操舵室の方に行ってしまった。
珍しいこともあるものだ。プライドの高い彼が嫉妬心を剥き出しにするなんて。ガジルとレビィに触発されたのかしら?まさかね…。
私は改めて一夜さんに貰った香水を自宅のどこに仕舞おうか考え始めた。ラクサスは鼻がすこぶる良いから、クローゼットの奥にでも仕舞おうかしら。
「クレア!あれ!」
カナの声でその場の空気がぴしりと引き締まった。カナの示す先には巨人化したマスターの姿。そのマスターを優に飲み込めるほどの砂の波。
「ラクサス!」
「ああ。」