第6章 雪山に轟く
「ここは…」
「気が付きましたか?ウバリさん。」
「クレアさん。それにラクサス君。私は確か悪魔の書を…」
「もう終わった。ウバリさん、あんたはよくこの集落を守ってるよ。集落の連中もそう思ってる。」
「ええ、外に出てみますか?みんな心配してるんです。貴方のことを。」
まだ少しふらつくウバリさんの肩をラクサスが支えながら外に出る。ウバリさんの家の前には十数人もの人が集まって騒いでいた。
「俺たちがウバリさんに頼りすぎてたんだ!」
「あんなに気負ってたなんてねぇ…」
「これからは私たちも自分たちで集落のことを管理していきましょう。」
「ああ、その通りだ!」
「…だとよ。」
「みんな…!」
「あ!ウバリさん‼」
「もう大丈夫なのかい?」
「集落のことはあたしらに任せて、もう少し寝てたらどうだい?」
みんな心配そうにウバリさんの周りを取り囲む。ウバリさんは涙ぐんでいる。聡明で責任感の強い人だからこそ、自責の念に苛まれてしまったが、もう大丈夫そうだ。
集落の者ではない私やラクサスがどう言おうと届かなかった声は、やはり集落のみんなが紡ぐとすんなりとウバリさんの心に入っていくようで、ウバリさんの肩からは力が抜けた気がした。
「自分一人で何とかしようとするなんて、無茶なこった。」
「人のこと言えないんじゃない?」
「…まぁな。」
何でも一人でやってしまおうとするのはこの人も同じだ。彼を大切に思っている人がどれほどいるのかも知らずに。そう考えると私も同じだ。多分人は、一人でも何とかできると勘違いして躓いて、かけがえのない人達に何度も救われるのだろう。私も誰かが溺れそうになった時に、手を差し伸べることが出来るような、誰かにとってかけがえのない人でありたい。
そう思いを巡らせながら隣に立つ人を見上げる。
「…なんだよ。」
「ううん、何でもない…。っって!あああ!」
「…急にデカい声出すな。」
「悪魔の書を燃やしちゃったらどう評議員に報告すればいいの!?」
「いらねぇだろ、報告なんて。」
「ほんとに?」
「多分な。」
評議員がこんな辺境の地に悪魔の書があることを知っているとは思えないし、もともとこの集落に代々伝わるものだったのだから評議員の管轄外ではあるが…
「ギヒッ、いいわけねぇだろうが。雷兄さんよォ。」