第6章 雪山に轟く
「キリン、送還。」
「…!クソ、この女。」
キリンを強制的に送還したことで彼の身体には大きな負担がかかったはず。私自身、今までにラクサスの魔法を何度か受けたことがあることが幸いした。思ったよりも麻痺時間は少ない。そしてラクサスが時間を稼いでくれたこともあって完全に麻痺は解けた。
「水竜の翼撃」
腕を横に一閃する。圧力を極限まで高めた水による翼撃はあんな岩など容易く切断できる。
「ぐはっ!!」
「咄嗟に腕で防いだようだけど、その腕もう使えないわね。」
「おらぁ!!」
苦し紛れにもう片腕を鋭利な岩に変えてこちらに突きを放つが、そんな乱雑に放たれた攻撃が当たるはずもない。ひらりと身を翻す。そうこうしているうちにラクサスがとどめを刺した。
「雷竜の顎!!」
水で濡れていたことによって雷の威力が倍増したようだ。ベイストは物言わぬ本と化した。これが悪魔の書だ。
「大丈夫?その傷。」
「お前の傷ほどじゃねぇ。」
「これは評議員に渡すべきかしらね。」
「拾っとけ。」
「はいはい。」
ブルム集落に戻ってウバリさんに悪魔の書を見せ、依頼の達成を報告する。その本から得体の知れない呪力を感じ取ったのか額に脂汗をかいている。
「これは…」
「この本に記されたのはベイストという悪魔です。彼は魔物を自分の能力として使える呪力を持っていました。魔物達がおかしくなったのはこの悪魔が原因でした。」
「…この本は、この集落に代々伝わる伝説を記したものだと、言われておった。」
「…!?」
こんな呪力の塊のような本を、何年も継承し続けてきたというのか。
「今思えば、ちょうどこの本が失われてから魔物達が暴れ出した。まさかこれが噂に聞く悪魔の書だったとは…。私はみすみす集落の者たちを死なせるところだったと言うのか…私の…わたしの、せいで」
「ウバリさん、落ち着いてください。」
「違和感に気付けなかった。もう一足遅ければこの集落どころか、隣の村にまで危険が及んでいたやもしれない。」
―負の感情だ。
ぞわりと髪が揺れた。いつの間にか悪魔の書のページが開いてる。まずい。
「ラクサスッ!」
「チッ!!」
「がぁっ!!」
ラクサスの拳がウバリさんの腹を抉った。ウバリさんは気を失ってくれたようだが、この悪魔の書は私が何とかしなければ。