第6章 雪山に轟く
受付が終わってギルドから帰る途中にあるカフェに寄った。私はダージリンティーを、彼はホットコーヒーを頼んでいつも通り仕事の打ち合わせなどをするつもりだったのだけど。
「報酬はいつ戻り半々ね。」
「いや、全額ここに入れるつもりだ。」
そう言って彼が差し出したのは見たことのない銀行名が書かれた通帳。
「どういうこと?」
「どうせすぐ一緒に住むんだ。家計も一緒でいいだろ。」
この人は今何て言ったの?ダージリンティーのグラスに入っている氷がカランと音を立てた。たっぷりの間をおいてやっと私は声を発する。
「…は?」
「俺はお前と一緒に住むつもりだったが、お前は違うのか?」
「私に相談もなくそんなこと決めてたの?」
「断る理由がねぇ。」
「…それ私の台詞だから。」
「嫌なのか?」
眉間に少し皺を寄せて彼が聞く。行動を起こしておいてからそんなに不安げな顔をするのなら初めから話しておいてほしかった。不安げな顔とはいっても他人から見ればただ私を威圧している顔なんだけど。
「そんなわけないけど、ちょっと急すぎない?引っ越しの準備とかもあるし…。それに二人で住むならマグノリアに住むべきだわ。」
「じゃあこの街にいる間はお前が俺のところに住めばいい。今の所を解約して。」
「…はぁ。あと1か月は最低でも待ってもらうことになるわよ。」
「決まりだな。」
心なしか嬉しそうに目元を和らげて言う。そんな彼を見ながら私は大家さんにどう報告しようかと考えを巡らせていた。しかしふと彼に振り回されながらも当然のように同棲することを視野に入れていたことに気づいて顔が熱くなった。そんな熱を冷ますようにダージリンティーを飲み干した。