第5章 もう一波乱?
背中に顔を埋めながらぼそぼそ喋るから後半しか聞き取れない。
「え?」
「もうどこにも行くな。」
ああ、と思った。私はこんなにもこの人を不安にさせてたのか。誰より仲間思いで、強くて、不器用な人を。私はつくづく自分のことしか考えていなかったみたいだ。彼の腕の中で反転して彼に向き合う。頬を両手で挟んで真正面から目を見て言う。
「…好きよ。誰よりも。」
彼が僅かに目を見張る。こんなにストレートに気持ちを伝えたのは初めてかもしれない。
「…。」
「…ちょっと、何か言ってよ。」
何も言わないものだから恥ずかしくて仕方ない。これ以上彼を見てられなくて反転してベッドから起き上がろうと端に寄って腰かけた時だった。
「うわっ!」
右手をぐいと引かれて私の体はあっけなくベッドに逆戻りした。真上には寝起きとは思えない鋭い眼光。この眼は繫殖期のリオレウスがリオレイアを見た時だわ、なんて悠長な考えをすぐに打ち消して言う。
「…冗談よね?」
「煽ったお前が悪い。」
言うや否や無防備にさらされていた喉に食らいついた。昨日の余韻が残っていた私の体はすぐに与えられる刺激に反応する。
ごめんね、エバ。今日の仕事にはやっぱり行けないみたい。