第5章 competition
俺は女に向ける営業スマイルと同じ笑顔を男に向けて、
「どーも♡」
と一言言った。
チラと隣のレオナを見ると、
少々驚いたような顔で目を丸くしている。
前回来た時は結構離れた所にいたから俺のダーツの腕は知らないんだろう。
俺がわざとレオナにウインクをすると、レオナは少し不機嫌そうな顔を一瞬見せてからすぐに視線を逸らした。
そういうことをするなと言いたいようだ。
でも男の方は全く気がついてないみたいでレオナの肩を引き寄せた。
「あんなふうにコントロールできたらプロ級だよ」
「そうなんだ。すごいね。」
そう言ってまたダーツを再開しだした。
後ろから抱きしめられるようにレクチャーされて、
まぁあのくらいのイケメンだったら普通の女の子なら顔を赤らめるところだろうが、レオナのあの笑顔の裏には超無機質な真顔があることが俺には分かる。
だから俺は
笑いをこらえるのに必死だ。
頑張れ、お客さん!
そう心の中で、レオナではなくその男に声援を送った。