第12章 happiness
数年前、なんの前触れもなく突然この街から跡形もなく姿を消した2人は当然、駆け落ちしたとの噂になった。
僕はいつか、そんな日が来るんじゃないかと薄々思っていたから、そこまで驚きはしなかった。
人は何かに縋りついてなきゃ生きていけないし、1度手に入れた努力の功績や環境を手放すことは想像を絶する大きな勇気と覚悟が必要だと思う。
それでも僕の憧れのあの2人は、容易く一瞬でそれらを手放した。
その時気付いたんだ。
人は案外、全てを捨てることで初めて本当の幸せに気付くことができるのかもしれないと。
だからこの世は皆、簡単に幸せになれないようにできている。
目に見えているものは全てまやかしで、それを獲得するための闘いが生きるということだからだ。
1度掴み取ったものは、なかなか手放すことができないのに、まやかしを手放さないと本当の幸福は手に入らない。
僕はまだまだ、その覚悟が足りないみたいだ。
だから僕の前にはいつも、あの2人の姿がある。
ただただ僕はいつも、心の底から幸せそうな2人の笑顔を想像している。