第1章 desire
「珍しいですねぇ。レオナさんがアフター全部断ってまっすぐご帰宅するとか…。あ、もしかしてどこか寄ってくとこあります?」
彼はほとんど私の専属のボーイ。
まだうちの店に来て半月もたってないけど、私は彼が来て間もない頃から彼を専属に指名した。
別に前の専属が気に入らなかったわけじゃない。
ただ、新人ボーイの育成も私の仕事のうちでもある。
店の士気を上げるためでもあるし、
なにより私自身のためでもある。
こうやって私がいろいろな所に気を抜かずに手を回せば、金は落ちるし客は堕ちるし、私の株は上がっていくばかり。
"やっちゃん" と呼ばれている、そのあだ名は私がつけた。
ヤマト君って呼ぶよりも親しみがあるし、私がそう呼べば周りもそう呼ぶし、すぐに周りと馴染んでもらえると思ったから。
ちなみに私よりも3歳年下で、つまり23歳だ。
「別に…寄るとこはないよ。
ただ今日は疲れてるだけ。心底ね。」
「ええ〜っ。大丈夫っすか?」
「大丈夫ではないね。」
「ええっ!僕になにかできることは!」
「安全運転」
「っはい!」
やっちゃんはハンドルを強く握って苦笑い気味にバックミラーの私から目を逸らした。