第11章 hesitation ■
「葵さん…
葵さんには正直に話すけど、僕は志も野心もなにもない男ですよ?別に、目指してるものもない。」
「野心なんて…幻想で霧を追ってるのと同じよ。
前にも私、そう言わなかったっけ?」
俺は頷いた。
そう、以前レオナに話したこの言葉は、葵さんが言っていたものだった。
輝かしい功績を得ようと必死で働いて、実際に手に入れてみたら今度は戸惑ってしまう。
…思ったほど幸せを感じなくて。
訳が分からず自問自答を繰り返して、結局は現状に満足できずまた次の目標を掲げて突っ走る。
永遠に、その繰り返し…。
「龍也くん…私でよければなんでも話聞くわよ。
あなた、いろいろ疲れてるのよきっと。」
そう言って、ホテルのカードキーを渡された。
「今夜はここに泊まるの。
お仕事終わったら、よければ来て。」
葵さんはその後すぐに店を出ていった。