第11章 hesitation ■
「クスクス…龍也くん相変わらず大変ねぇ〜。
あの可愛い子、大丈夫かしら〜?」
葵さんはとても上品に笑うし、上品に話す。
マツエクサロンをいくつも経営しているオーナーだ。
「ん。頑張りますよ、何とか僕が。
はい、乾杯、葵さん。」
葵さんはもう100万くらいするアルマンドブリニャックのボトルを入れてくれていて…
なんなんだろ?
と思ったけど、しばらく仕事が忙しくて来られるか分からないからとかなんとか。
だから俺も長く葵さんの席に着いていたいのは山々なんだけど、葵さんはとても寛容でいつどんなときも文句一つ言わない。
他のホストたちからも慕われていて
奴らのバカみたいな騒がしいコールにも応えてくれる遊び心溢れる人でもある。
そこで一気飲みをしても顔色1つ変わらない。
そこまで酒に強いというのもすごいと思うけど
なんというか、大人としての余裕と貫禄が女性をも男性をも惹き付ける要素を持っているように感じた。
「葵さんも、お忙しそうですね。
それなのにいつもありがとうございます」
「ううん。私は龍也くんみたいに、顔も良くて仕事もできて、志がある輝いたパーフェクト男子を応援したいだけだから。」
艶めかしく弧を描く真っ赤な唇を見つめて笑う。
志…って…
そんなもの持ったことあったっけ俺。
No.1
じゃない頃は、絶対頂点とってやるとか意気込んでたのは確かだけど、なったらなったでそれをキープし続ける努力をしていることを果たして「志」というのかどうなのか…。