第11章 hesitation ■
ー龍也sideー
「大丈夫だよ…私が…そばにいる」
そんなふうに優しく囁かれて、
優しく抱き締められて
頭を撫でられたらさ…
俺という存在がなんなのか、
わかんなくなるよ。
龍也という一人のホストの
威厳もなにもないよね。
今日もいつもの如く、指名が被りすぎていた。
寛容な客、短気な客、いろいろいるわけだ。
だからといって、俺は贔屓したり変に気を使ったりはしない。
金を払ってもらっている以上、あくまで平等に席を回りたいわけだ。
たとえ着けるのが10分だろうと、5分だろうと。
でも……
「ちょっと龍也〜!
最近さぁぜんっぜん会えなかったんだしぃ、もう行っちゃうとかなくなくないー?」
「っ…菜摘ちゃん〜♡
なくなくないってー?どっちの意味ー?
ごめんね?許してくれる?」
こめかみに唇を寄せて、甘い声で囁く。
「うぅー!それっ反則〜!ばかあ!
もーすぐ私の誕生日なんだよ?知ってるよね?」
「うん。もちろん知ってるよ?何が欲しい?」
「なんにも要らないから私に時間割いてよね!
ここ1週間くらいは!」
「ふふっ…わかったわかった♡お姫様♡」
そういってなんとか席を離れ、
ヘルプに任せて今度は葵さんという50代前半のお客の元へ行った。