第8章 cruelty ■
ー龍也sideー
ヤマトくんは初日にも関わらず、
早くも場内指名を3卓から貰っていた。
これはなかなか凄いことだ。
初めはすごく緊張している様子で、
けれど弱音的なものは一切発さず。
迷惑はかけないように勤めます!
と言うだけだった。
さすがレオナに躾られた仔犬くんだわ。
…って俺はかなり失礼なこと思っちゃったり。
あ、でもこれは褒め言葉。
本当にすごいと思うよ。
席に着く前に、必ず
あの女性はこうでああで…という説明をするように従業員や同僚たちには言ってあった。
ヤマトくんはその仔犬のような童顔イケメンフェイスと子供のような明るく純粋無垢な性格で、どの客のハートも掴む天性のセンスがあるように感じた。
だけどその反面不安なのは、
そうやって"裏がない"ことだ。
この世界では純粋な心は命取りになることがある。
必ず裏の心、黒い心がないとやっていけない。
だから果たしてヤマトくんは
ホストというこの職に向いているか否かと問われれば、正直言って俺は今日1日見た限りだと、"向いてない"と判断してしまうだろう。
ただのキャバクラのボーイくらいが確かにいいのかもしれない。
しかしながらそれは今日見た限りで言う話だ。
この職に就いていればほとんどの奴は
否応なしに少しずつこの世界に染まっていく。
純潔な白は灰色に穢れ、やがて黒くなっていく。