第1章 desire
「…龍ちゃん、その女には今すぐ電話するべき。」
「っは??どっち?エルメスの方?」
「違うよ、シャネルの方。」
「え、なんで?どっちかっつーとエルメ」
「この場合バーキン女は放っといていいから。
早くシャネルちゃんに電話しなさいよ。絶対待ってるんだから」
「うへぇ〜?ほんとにぃー?」
「私を誰だと思ってんだよ」
「へいぃ〜。かしこまりやした。女王様。」
龍ちゃんは心底面倒くさそうに電話をかけ始めた。
いい?なるべく甘い口調でね?
なんてことは言わなくても、龍ちゃんは客に対してだと360度人が変わる。
一人称も"僕" になるし。
マジでアンタ誰だよ、と突っ込みたくなるくらい。
でもそれは私も同じだからとくにコメントはしない。
「うん、うん…そうなんだよねぇ。分かるよ。でも僕の気持ちもわかるでしょ〜?…そうだよ。うん、ユイのあれのが1番いいに決まってるじゃないか。めちゃめちゃ落ち着くんだ…キミといると……ふふっ、ありがと♡
明日も来てくれるでしょ?アフターしよ♡うん、うんいいよ。わかった。」
私は炭酸水を飲みながら、
その甘ったるくて優しげな声に聞き耳立てる。
ホストに来る客なんて、皆心を埋めてくれる何かを求めているのだ。
中には本気で病んでいる人もいるだろう。
そんな中、こんなに優しく甘くされたら…
女の子なんて弱いんだから、イチコロだよ…