第7章 situation
私たちは観覧車の中にいる。
いつもマンションの一室で高い位置から見下ろしているけれど、今見下ろしている遊園地の中の夜景はそれとは違った優越感に浸れた。
愉しそうにはしゃぐ人々がなんだか滑稽にも見える。
「そぉいえばレオナって、失恋したことはあるの?」
龍ちゃんが下を見下ろしながら聞いてきた。
「もちろんあるよ、そのくらい。
もっと可愛げがある方がいいとか言って振られたり、野心持ってる女がいいとか言って振られたり…。とにかく、私と一緒にいると皆不安になるんだって。」
「えっ!俺と同じこと言われてんじゃん!」
……そっか。
龍ちゃんがホストになるきっかけを作った子はそう言ったんだ…
「私は昔はただ…幸せな結婚とか家族とかってのを信じてた。
でも…周りを見ていたら突然そういう幻想を抱くことが馬鹿馬鹿しくなっちゃって…。
そんな宝くじレベルの確率の幸せに人生賭けるのがね…
それなら私は、何か一つでも、人より抜きん出た野心を持って生きた方がいいかもと思ったの。」
だから夜の世界でNO.1になることを野心として生きてきた。
その先も、1人で生きられるくらいに稼いで。
「野心なんて…幻想で霧を追ってるのと同じさ。
輝かしい功績を得ようと必死で働いて、実際に手に入れてみたら今度は戸惑ってしまうんだ。…思ったほど幸せを感じなくてね。
訳が分からず自問自答を繰り返して、結局は現状に満足できずまた次の目標を掲げて突っ走る。永遠にその繰り返しさ…。」
向かいにいる龍ちゃんは、キラキラと光る都会の夜景をボーッと見下ろしている。
長いまつ毛が影を作り、その姿はどこか妖艶だった。
「…確かにそうだね。どうしてだろう。
手に入らない時は魅力的に見えて、手に入った途端に思っていたのと違うってなるんだよね…それなのに、いつのまにかそれが手放せなくなってるの」
私たちは座らずにただただゆっくりと上がっていく観覧車の中で立ったまま下を見下ろしていた。