第7章 situation
ーレオナsideー
「人は皆、生まれた時から、戦うための競争心を植え付けられてる。
仕事だけじゃなくて、遊んでる時も同じさ。ダーツしててもビリヤードしてても、いつどんな時も本能が人を戦わせるんだ。」
「うん、わかる。疲れるよね…」
「そうだな。人生は疲れるよ、心底ね。」
今日の龍ちゃんはなんだか別人のようだ。
仕事以外の話をこんなにしたのは初めてだ。
正直、ここまでしっかりしている人だとは思わなかった。
さすが良い大学を出ているだけのことはあるし、
あの世界でもNo.1なだけある。
この数時間で、彼の中身をとても深く知ることができた。
「もしも人生を厳しい現実として受け入れることができたら…素直に人生を楽しめるようになれんのかな」
「受け入れられないと分かってるから…私もあなたも苦労してるんでしょ。でもさ、私たちって、見方によってはそれなりに幸せな方だよね。雑誌とかのメディアでも、憧れの対象として周囲に印象付けるじゃない」
「うん、そうなんだよ。幸せの定義っていうのはもしかしたら、他人から見る自分の姿かもしれないと思う時があるんだ。究極言ってしまえば、戦争や貧困のある国や他人から見た俺らは、幸か不幸かで二極化したら、絶対に幸せなほうだし。だから主観的な幸せは、"贅沢" と呼ぶのかもしれないな。」
龍ちゃんは切なげに笑った。
「幸せってもしかしたら…自分の感情は関係ないと切り捨てて、他人に委ねている方が、むしろ幸せなのかも……」
もう辺りは真っ暗だ。
暗い話をしているつもりはない。
幸せな生き方が分からない私たちだけど、そんなに悪くないと思って生きてなくてはならない。
私たちは、他人から見れば羨ましいとか憧れとか嫉妬とか、そんなものの対象らしい。
実際の努力や苦しみが分からないからそんなふうに言えるのだ。
人はないものねだりだ。
届かない距離にあるものは、いつだって魅力的に見えてしまう。
でもそれは近づけば近づくほど、大したものじゃないと気づく。