第7章 situation
「家に帰ってから両親に言うと…
俺を座らせてゆっくり話してくれた。
人は…死ぬともう会えないんだよって…。」
「・・・」
「あれ以来、俺にとって曖昧なんだ。何もかもが…
"死" だけじゃなくて、俺たちの生きてるこの世界も、実は全てがまやかしで、誰かが客観的に俺らを見ているだけかもしれないとも思ったり。
それ以来俺はさ…なら自分の好きに、自由に生きてやるって思った。」
窓から差し込む夕陽に照らされている龍ちゃんはいつも以上にとても美しく見えた。
キャップを被っているのに、頬杖をついて夕陽を眺めている彼の目には光が差し込んでいた。
「…そう思える人は幸せだね。
私は24時間、死を恐れてるから」
彼がポカンとした表情でこちらに視線を移した。
私は笑った。
「本当だよ?
だから、電車も怖いし、飛行機も怖い。
車もタクシーももちろん怖いけどね。でも、統計上は電車の方が安全なんだよね」
龍ちゃんは噴き出している。
「想像しちゃうんだってば。
事故ったり、機体が爆発したり…あとはテロとかも」
「はははっ、そんな可能性を考えてたらキリがないよ」
「死ぬ前の数秒間がものすごく怖いのよ。
だって…"死ぬ"って分かってるんだもん…」
龍ちゃんは黙って目を細めて私を凝視している。
「……いつもそう考えるから…
疲れてしまうの。」
「だろうね」
「ふふっ、うんざりするよ、こんな私にね」
私は老いることも死ぬことも恐れている。
それは人間に唯一平等に与えられたものだからだ。
どんなに何かを努力しても、決して避けては通れない、逃れられない宿命。
それほど怖いものはない。
抗う術が何もないからだ。