第7章 situation
「俺のひいおばあちゃんが死んだ時さ、母親が初めて死について話してくれた。俺はまだ3歳だったから、誰かが死んでもよく分かってなかったんだ。
葬式が終わったあと、姉と外で遊んでいたんだけど」
「えっ、お姉さんがいるの?」
「うん?言ってなかったっけ。
俺の4つ上で、もう子供2人いるよ」
「言ってないし…」
でも何となくわかる気がした。
お姉さんがいる男性って、優しい人が多いから。
「ちなみに状況は結構レオナと似てるよ。
一般的なレールに乗って生きてる姉は、俺とは正反対。
ちなみに母親は今、どこで何してるか分からない。
だから父親は、理想の夫婦や家族の形に厳しいんだ。
気が強い姉は、ある日妊娠したと言って、父親が望まないタイプの男との結婚を強行したんだ。」
「凄い…お姉さん。自分の幸せを譲らなかったんだね」
「うん、でもさ……結局今はシングルマザーだよ。
父親も、それ見たことかみたいな感じで、俺の言うことを聞いていればこんなことにはならなかったんだってキレてたな。」
「そっか…。でも、人生なんてどうなるか分からないもん。
人って、選んだ後悔より選ばなかった後悔の方が大きいから、お姉さんは正しかったと思う」
あ…何も知らないのに出すぎたことを言ってしまったと思って口を噤んだ。
「ごめん遮って。さっきの続きは?」
「あー、でね……
式場の外で姉とシャボン玉をしていたら、その中にひいおばあちゃんが映ってた。
シャボン玉が消えた時、向こう側にひいおばあちゃんが立ってたんだよ」
私は目を見開いた。
しかし龍ちゃんは楽しそうに続ける。
「静かに笑いながら立ってたんだ。
ボーッと見ていたら、歩いてっちゃって…やがて消えた。」
「……へぇ…」
こんな微妙な時間にカフェに来る人は少ないのかもしれない。
しかも平日だからか、
自分たち以外に3席しか埋まっていない。
店のBGMは、最近流行りの洋楽だった。
そんな中で、不思議で奇妙な話を聞いている。
けれどゆっくりと流れるこの時間は、すごい心地よい。