第7章 situation
「それでいいんだよレオナ」
「え?」
「自分が間違ってないと思う生き方が、結局1番正しい。
誰も自分の代わりに自分の人生を生きてはくれないんだから。」
頬杖をついてグラスをかき混ぜている彼の表情は、爽やかだけどどこか影があるように見えた。
「俺は子供の頃、他人の嘘が見破るのが得意だった。
だから、人が俺に望むこととは別のことがしたいと思ってたんだ。
いろんな建前を使っていろんなことを言ってきても、どうせそれは俺を思ってのことじゃないって分かってたからね。
ふふ、性格悪いだろ?」
龍ちゃんの長いまつ毛が揺れて、何かを思い出すように口角が上がっていく。
「大学で法学部入って法律学んで、弁護士を目指そうとしてたけど、途中で馬鹿馬鹿しくなってきてさ。あらゆる法律を知るとさ、世の中の理不尽さや穢れがよく分かるんだ…生きるのすらアホらしく思えたりもしてきた。」
龍ちゃんはアイスコーヒーが思ったより苦かったのか、ミルクとガムシロを2つも入れた。
「そもそも、他人の野心を押し付けられるのは嫌なんだ。親だろうが教師だろうが上司だろうが。でもそれが社会ってもんだから、馴染めない俺は結局社会人失格なのかもな」
「……分かるよ。まぁでも…誰もが優しくて協力的だったらそれもそれで怖くもなるんだよね。全ては自分次第ってことだから…」
「うん、そうだね…
人は皆、自由に生きたいと望んでいても、いざ本当に自由にされると、一気に恐怖が襲ってくるものなんだ。」
一人で生きていくという覚悟は、何があっても自分の人生に責任を持つということだ。
だから人間は、様々な社会に反発をしながらも、心のどこかで寄りかかれる何かを常に求めてしまっている。
何かのせいにして生きている方が簡単だからだ。
「いろんな悩みや辛いことがあったけど、俺は子供時代を思い出すと不思議な気持ちになるんだ」
龍ちゃんは何かを思い出すように笑いながらストローに口をつけ、頬杖をついて窓の外を眺めた。
外には仕事終わりのスーツ姿の男女が増えてきているように見えた。
こんな時間に外に出ることなんてほとんどなかったから、やけに新鮮で、そしてここはどこなのだろうと言う気さえしてくる。
自分たちは本当にこの世界の住人なのかと…
いや、違うかもしれない。
私たちの住んでいる世界はこの人たちとは違う。