第7章 situation
そんなこんなで午後4時に差し掛かりつつあった。
私たちは普段から昼食も夕食もない。
お腹がすいたら適当に摘むだけ。
だからとりあえずカフェに寄って、
夜遅くにお腹すいてたらどこか行こうということにした。
「私の両親て、私が小さい頃から、
結婚して子供産めとか言わなかったんだ」
私はアイスラテをストローでかき混ぜながら言った。
「でも、将来はちゃんとした仕事を持つようには言われてた。
たとえば、医者とか教師とかね…」
「へえ。似合いそうっ。」
「私が小説家になりたいと言えば記者になれと言われ、野良猫を世話したいと言えば獣医になれと言われ、モデルと言えばキャスター…
私の気まぐれな夢を、親はいつもお金になるものに変えた」
龍ちゃんは伊達メガネをずらしながら噴き出した。
「普通の親なんてそんなもんだよ。
親は子供をいつだって自分の理想にしたい。
それは子供の幸せのためでもあるけれど、どちらかと言うと自分の幸せのためなんだよ。これは人間の本能。誰だって一生自分が一番可愛いんだから。」
何食わぬ顔でそう言い、ストローをくわえた。
その一挙一動がいちいち美しくて女を魅了する武器だと思った。
この男も、自分が一番可愛いんだろうか。
「私はずっと、期待された子供だったの。
長女だったからかもしれない。子供の頃は毎日習い事をさせられてて、嫌なことも嫌だと言えないような子だった。
でも今はもう、随分長いこと家族と会ってない。
早いうちに結婚して子供を産んだ妹に全ての期待が移った感じ。
そういう親の望む普通の生き方ができない私は、見捨てられたんだ」
私は幼い頃から、親の期待に応えることが正しい生き方なのだと信じていた。
なぜか自由気ままにさせている妹にはあまり期待していない感じで、私にばかり厳しかったけど、それで良かったとまで思っていた。
けれど、大人になるにつれて親の望む生き方とはどんどんかけ離れていく私はついに愛想を尽かされ、今ではあの頃と真逆だ。
" どうして普通に生きられないの?!"
普通って何…?
ずっとその疑問が解決しない。
好きに生きることは、普通ではないのだろうか。