第2章 高校2年の夏ー動く気持ちー
ぽろぽろと涙を流すと唇が解放される
「りほ...」
「な、んで...こんなこと、する、のぉ」
力が入らず私の腕は兄に掴まれたまま
涙を流しながら私は必死に問いかけた
「もぉ...我慢できねぇんだよ」
「え...」
「前に彼氏ができた時は変わらなかったのに...今の彼氏ができたら毎日毎日幸せそうな顔してよ...俺じゃおまえを幸せにしてやれねぇって思うと、もう我慢できなくなった」
兄の腕を掴む力が強くて少し痛い
それよりも兄を苦しませていたのは自分なんだと分かると胸がもっと痛くなった
「お兄ちゃん...」
「ごめんな、ちゃんと兄ちゃんになってやれなくて」
兄はそのまま家を出て行ってしまった
私は後を追うことが出来ずにその場に立ち尽くした
翌日学校へ行くが気分が乗らず1、2限を保健室で過ごした
珠世先生は不在だったので勝手にベッドを借りて私は眠れない瞳を必死に隠して横になる
すると保健室の扉が開いて誰かが入ってくる
何故か私は息を潜めて隠れるように布団に潜った
私が寝ているベッドのカーテンが開かれる
なに?誰?
「りほ...?」
確認するかのように小さく名前を呼ばれる
それは今聞きたいようで避けていた声
布団の中でピクリと反応するとベッドの淵が少し沈む感覚がしたので声の主はどうやら座ったようだ
「どうした?具合が悪いのか?」
優しい声に私は涙がでそうになる
そういえば2限目は数学だったな
そっか...心配して見にきてくれたんだ
布団から目の下まで顔を出すと此方を向いている実弥先生がいる
「泣いてたのかぁ?」
優しく撫でてくれる実弥先生は心配そうに見てくるからもう一度頭を布団に引っ込める
「なにがあった?」
「...なんでも、ないです」
「おまえが授業に出てなくて神崎に聞いたら保健室にいるって言うから具合が悪いのかと思ったんだが...その様子だと違うみてぇだな」
実弥先生は何かを察したようだった
「昨日...お兄ちゃんに、キス、されました」
「...」
何も言わないので心配になってもう一度だけ顔を出す
そこには実弥先生の悲しそうな顔があって私はまた胸が痛くなる
「ごめ、なさい...っ」
思わず涙が溢れてしまう
「おまえが謝ることじゃねぇよ」
実弥先生は優しく頬を撫でてくれた