第3章 ダーハルーネへ
そろりそろりとホメロスに近付く。軍人のくせに背後が疎かとは、情けない事だ。
「貴様ら!いつの間にこんなところにまで!チョロチョロと目障りな鼠どもめ!悪魔の子もろとも私1人で片付けてくれるわ!」
5人対1人ってなんとなく罪悪感が湧かないわけでもないが…兄を助ける為だ。此処は全力で行かせてもらう。
「皆!行くよ!」
「はい!」
デルカダールで仕入れたレイピアを使って戦闘に臨むことにした。もう見ているだけも、逃げることも、やめたの。
「薔薇十字!」
縦と横に一回転。剣の軌跡に薔薇が舞う。美しいけれど、棘がある、そんな技だ。
「ちっ…」
「これで…終わらせる!」
最大の隙を見せた所で、後ろから振りかぶってくるイレブンさんに最後の一撃を任せた。我ながら良い連携だったのではないかと思う。
「よし…!」
「今のうちに…」
兄を縛り付けている紐を切り裂いて助け出した。
「怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ」
体制を立て直した所でホメロスと向き合う。あの程度ではかすり傷程度という事か。
「此処までだな」
「…あら?」
シルビアさんが当たりを見渡す。
「みんな〜!もう大丈夫よ!」
するといきなり海に飛び込んだ。ギョッとして思わず剣を持つ手を緩めてしまう。
「シルビアさん⁉︎」
「はは、ついに仲間に逃げられたか!」
高笑いする軍人に腹が立って仕方がないが、明らかに奇行がすぎる。
「え、えぇ…?」
「待って、みんな!あれを見て!」
ベロニカさんが指を刺した方向を見ると、豪華な船がやってきたのであった。
「あの船は…」
「シルビア様のものですわ!」
「なんともハデ〜な船だな…」
「さ、皆乗って頂戴!」
シルビアさんに言われて皆が次々に船へと乗り込む。最前線にいた私が一番最後に乗ることになり、急いで船に駆け寄る。
「エリー!」
「お、お兄ちゃん…」
一瞬躊躇ってしまった自分がいた。躊躇ってる場合じゃない事は分かっているのに。一瞬の間が出来てしまった。
「きゃっ…!」
「その女を連れて行け!」
「いやっ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「エリー!」
後ろから兵士に捕らえられ、ずるずると引きずられていく。
「おっさん!戻してくれ!あいつは!俺の大事な…!」
「いいの!早く行って!」
持てる限りの大声でそう叫んだ。