第2章 悪魔の子
目が覚めると地下牢の中で、恐らく隣の囚人の音で目が覚めた。どうやら壺を割った様だが、こんな静かなとこでよくやろうと思うな…って思ってしまった。
「なんだ?」
聞き覚えのある声だ。
ガシャン
「落ち着きがねえな。どうにもならねえし、じっとしとけよ」
知ってる。私は、この人の声を知っている。探し求めていたはずなのに、どこか避けていた声。
「おにい…ちゃん…」
「⁉︎」
「シエラ、目が覚めた?」
「は、はい。すみません。大口を叩いておきながら、結局捕まってしまいました」
「ううん。僕のせいだし。それにエリーが庇ってくれなかったら僕だってきっと死んでたよ。ごめんね」
「いいえ。おばさまに頼まれましたから」
「エリー…か?」
イレブンさんとの会話に割り込んできたのは、兄だった。ずっと避けていたのに、まさかこんな所で出会ってしまうだなんて。
「うん…そう、だよ」
「二人は知り合いなの?」
「知り合いも何も…家族だ」
「…こんな所で出会うだなんて思っていませんでしたけどね」
「なんでまた…」
「兵士が来ます。静かにした方が良いですわ」
黙ってベッドに寝たふりをした。カビ臭くて寝るにも寝たくないベッドであったが、これが囚人の扱い、という事なのだろう。
「おりゃっ」
兄の声と共に鎧が床に打ち付けられる音。
「何をしたの?」
「ほら、行くぞ。こんな所嫌だろ」
なんだか怖くて兄の顔を見れなかったが、差し出された手を握って地下牢から脱出することにした。
「滑りやすいから気を付けろよ」
「う、うん…」
イレブンさんが先導し、次にお兄ちゃん。最後尾に私の順に進んでいく。
「エリー。気を付けろ。ほら」
「あ、ありがとう」
久し振りのお兄ちゃんの手は相変わらずあったかい。ぎこちなくなっている自分が阿保みたい。
「よし、行こう」
そのまま暗闇を進もうとするイレブンさんを、兄が静かに制止した。その先には黒くて大きい、何かがいる。
「しっ…何かいる」
「恐らく、ブラックドラゴンですわ。倒してしまいましょうか?」
「此処で変に音を立てて兵士達に見つかるのも…」
「でももう起きてしまったみたいです。すぐに終わりますので、待ってて下さい」
レイピアを構えて、ブラックドラゴンの急所を狙って斬りつけた。叫ぶこともなく静かに倒れていったのを確認し、剣を鞘に収めた。