第2章 悪魔の子
「強くなったんだな…」
「これでも5年は旅してるんだよ」
「…そうか」
「先に行きましょう。いつ兵士が追ってくるとも限りませんし…」
「うん、そうだね」
気まずい雰囲気を拭えず、そのまま進むと、今度は地下水路に行き着いた。
「地下水路…ですか…」
「灯が見える。松明を消して、俺に着いてきてくれ」
「分かった」
イレブンさんが松明を消し、足音を立てない様にして進んでいくことにした。案の定デルカダール兵が蔓延っており、気を付けて進まなければ戦闘は避けられない。
「…!見つけたぞ!」
「…っ!」
「走りましょう!」
なんとか走って撒こうと思ったのだが、橋の上に追い詰められてしまう。一気に沢山の人が橋の上に乗ってしまったからか、石でできた橋が崩れ始めた。
「おいおい、マジかよ」
「色々ありすぎて目が回りそう…」
「エリー!」
「お、おにいちゃ…!」
「手を伸ばせ!」
やっぱりお兄ちゃんが好きな私は、言われた通りに手を伸ばして、兄の手を握っていた。やっぱり兄の手が一番安心する。
「おにいちゃ…ゲホッ…!」
「しゃべるな、口に水が入ったら嫌だろ」
「うん…」
痛いと思われても仕方がないくらいに兄の手をぎゅうと握る。水には慣れているつもりだけど、やはり怖いものは怖い。
「い、イレブンさん…!」
「ゲホッ…」
「はやく、手、伸ばして…!」
なんとか精一杯腕を伸ばし、イレブンさんの手首を掴んだ。これでなんとなく安心してしまう。
「後は身を任せろ。いいな」
「うん」
「ゲホッ…わ、わかった」
それからどんぶらこ、どんぶらこと流され、濁流に飲まれているうちに意識を失ってしまった。でも多分2人の手は離していなかったと思う。此処で離れてはいけないとなんとなく思ったからだろうか。
それから暫くして目を開けると、見知らぬ場所に流れついていた。兄とイレブンさんはまだ眠っている。私の両手はしっかり2人の手を握っていた。
「2人とも…息してる。良かった…」
私は1人で起き上がり、先に出口を目指すことにした。この後、目を覚ました兄とどうやって会話したら良いのか分からなかったからだ。それに、自分の事でイレブンさんを巻き込みたくない。
「お兄ちゃん、イレブンさん、ごめんね。いつかまた、会いましょう」
2人をその場に残して、出口へ向かって歩き始めた。