第5章 夢の行方
鈴を追いかけることはできなかった。また傷つけてしまうかもしれない。
(あんなこと言いたいわけじゃなかった……)
さっきまで鈴がいたベンチに座って伏黒はうなだれた。
鈴の泣き顔が頭から離れない。これじゃあのマラソン大会の日と同じだ。
またあの後みたいに避けられて、このまま別れることになるのだろうか。
࿐༅ ࿐༅
「ここは追いかけるとこだろ!」
「しゃけしゃけ」
こっそり成り行きを見守っていた一年生たち。
「全部裏目に出たなぁ。どうする?」
「鈴ちゃん、追わないと。たぶん裏門の方に行ったよ」
鈴は泣きながら、とぼとぼと歩いていた。
ズキズキ、ズキズキ、まるで細い刃物で刺されるみたいに胸が痛い。
建物の傍を抜けて、裏門を通って道路に出る。幸か不幸か誰にも会わなかった。
(そういえばこっちの方には来たことない…)
正門からは伏黒や新田と何度も出入りしたが、裏門は初めてだった。
見慣れない景色。目立つような建物はなく、人通りも少ない。
"一人で高専の外に出てはいけない"
そう言われていたことを思い出したが、遅かった。
鈴が戻ろうとした瞬間、背中にビリッと痛みが走る。
気を失う寸前、薄ら笑う老婆の姿が見えた。