第5章 夢の行方
鈴はすぐ見つけることができた。玉犬が匂いを覚えているからである。
鈴は日当たりの良い軒下のベンチで片耳にイヤホンをしてリスニングの勉強中だった。
わんっ!と玉犬が鳴いて、振り向いた彼女は笑顔になる。
「シロちゃん!久しぶりだね。あ、伏黒くん!」
鈴は立ち上がって、にこにこ笑った。
「…話があるんだ」
「うん。なぁに?」
面と向かって聞かれると言葉が続かなかった。なんて言えば伝わるのだろう。
伏黒が言葉に詰まるのを不思議そうに見つめてから、鈴は口を開く。
「あのね、私も聞きたいことがあったの。五条先生に呪術師にならないかって言われたんだけど、伏黒くんはどう思う?私なんかが何かできるのかな?」
鈴はまだ何も知らない。呪いや呪術師がどういうものか。どんな形であれ関わると、これから理不尽な思いをしたり残酷な目にも遭うだろう。
そんなのいいわけないから。
「……できない」
氷みたいに冷え切った、冷たい声だった。
「ここにいても蓮見にできることは何もない。五条先生と話がついたら出て行ってくれ」
「でも伏黒くん、新田さんみたいにお手伝いでも何でもいいの。だからーー」
「だから、蓮見にできることは何もねぇって!」
怒ったみたいに強く言われて、胸の奥がズキンと痛む。
いつもの伏黒くんと全然違う。そっけなくてもいつもどこかで優しかったのに。
じわっと鈴の瞳に涙が浮かんだ。
伏黒は焦る。傷つけたいわけじゃない。もっと違う言い方があるはずなのに。
「蓮見、悪い。言い過ぎ……」
「……そっか。そうだよね、私なんかに…」
できることなんて何もないのに。
伏黒くんと同じ学校に通えるかもなんて一瞬でも夢見た私が恥ずかしくて情けない。
こんなことで泣いてしまう弱い自分が嫌。伏黒に泣き顔を見られたくない。
鈴はすぐバックに教科書を積めて駆け出した。