第5章 夢の行方
「…避けてないですよ。たまたま…」
「たまたまなわけないだろ。お前がどういう奴か、私はよく知ってんだよ。この薄情者」
「鈴が泣いてたぞ〜。私、伏黒くんに避けられちゃってるの〜、え〜んって。冷たいなぁ、恵」
パンダの下手な泣き真似にうんざりする。こんな不毛なやりとりに付き合いたくはない。
「だからもう俺は関係ないんで」
「関係ないってなんだよ」
「事情聴取が終われば、あいつここからいなくなるでしょ」
「そうなの?」
「昆布?」
乙骨と狗巻は揃って首を傾げた。
「鈴は呪霊が見えるんだろ?出ていくとは限らないんじゃないか」
パンダも腕を組んでもふもふの手を顎に当てた。
なんなんだ、この人たちは。なんで鈴がここに残る前提で話を進めているんだ。
出て行ってもらわなくては困るのに。
これ以上心の中をかき乱されたくはないし、もっと彼女に近くなってしまえば、底なし沼のように抜け出せなくなる気がする。
大体、鈴の幸せはここにはないのだから。
「あのさぁ、悟が手放すとは思えないぞ。あいつ術式持ってるんだろ。そうでもなきゃ悟が直々に事情聴取なんかすると思うか?」
真希の指摘は的を得ていた。鈴は五条のお気に入りだ。たぶん、初めて病院で出会ったときから。
あんなチャラチャラしていても、常に呪術界のことを考えている彼が容姿だけで鈴を気に入ったとは思えない。あの特級呪物と、鈴自身にも何かある。
でもそれは、伏黒にとってはタブーだった。
「…じゃあ禪院さんは、蓮見が呪霊と戦って危険な目に遭えばいいと思っているんですか?」
本当に自分の声かと思うぐらい、どす黒くて暗い声色。
いつものように冷静ではいられないのはなぜだろうか。
「恵、そんなわけないだろ」
「蓮見をここに来るように仕向けたのは俺だ。五条先生に見つかるきっかけになったのも」
そもそもの原因は俺だ。
あの時鈴のマンションに行かなければ。
病院で親しく話したりしなければ。
あの学校で出会わなければ。
「……蓮見に話してきます」
ここにいてはいけないって。