第5章 夢の行方
「ごめんね、鈴。待った?」
「全然、待ってないですよ」
今日も五条との事情聴取。といっても、堅苦しい感じではなくわりと雑談に近い。
そもそも五条は日本に4人しかいない特級呪術師というすごい人らしく、話している間もよく電話がかかってきたり、伊知地が呼びに来たりといつも忙しそうにしている。
「えらいね、受験勉強?」
「一応、受験生なので。前の家の荷物を新田さんが持ってきてくれたから」
五条を待つ間、鈴は受験勉強に勤しんでいた。
マンションの中は散々荒れていたが、鈴の部屋だけは無事だった。衣服や教科書など、新田が警察の許可を得て持ってきてくれた。
「でも私、受験とかできるんでしょうか?」
中学の教科書を閉じると鈴は最もな疑問を口にした。学校はもう始まるし、住民票とかどうなってるんだろう。高校で浪人は嫌だなぁ。
「その時になったらなんとかするから安心して。それより鈴、今もかわいいけど、コンタクトにしたらもっとかわいいと思うんだけど」
「でもメガネの方がしっくりくるんですよね。子どもの頃からかけてるから、体の一部みたいで」
「うーん、残念」
鈴は照れたように頬を染めて笑う。恥ずかしそうなのがこれまたかわいい。
五条は正面に座ったまま、長い手を伸ばす。
瑞々しいチェリーピンクの唇を指でなぞると、翡翠色の瞳が少し困ったように揺れた。
「あの、五条先生?」
「……ねぇ鈴、ここで呪術師にならない?」