第4章 呪術高専①
冬晴れの気持ちのよい空。
久しぶりの外出が嬉しくないはずがない鈴は上機嫌だった。最初は。
神社までは徒歩で20分ほど。すたすた一番前を歩くのは真希。
歩幅をさりげなく鈴に合わせる伏黒が後に続き、その半歩後ろを鈴が歩く。
東京の郊外は意外と自然豊か。見慣れない景色が新鮮で鈴の視線は定まらない。
自ずと歩くスピードは遅くなり、真希はイライラしていた。
「早く歩けや、かいわれ大根」
「何ですか?かいわれ大根って?」
「アイツだよ。置いてっちまうぞ」
真希が顎でしゃくり上げた先には鈴がいる。
「もっといいあだ名ないんですか?」
「ねぇよ。もやしよりひょろひょろしてんじゃん」
鈴は手も足も細く体幹も弱そう。ちょっと強い風が吹いただけでも飛んで行きそうだ。男女という違いがあるものの、入学時の乙骨よりなよなよしい。
なんでコイツ高専でうろちょろしているんだと真希は若干気に入らない。
「きゃーー!!!」
急に鈴は悲鳴を上げて、伏黒の背中に飛びついてきた。大きな翡翠色の瞳をうるうるさせて半泣きだ。
こういう不意打ちは心臓が跳ね上がるからなんとかしてほしい。
「伏黒くん!変な生き物が頭に乗ってきたの!!」
「…ああ」
鈴の頭の上には小さな蠅頭がちょこんと座るように乗っていた。あっち行って!と頭を振って落とそうとするが効果はなく、伏黒が手でバシッと振い落として祓う。
「蠅頭だ。ほっといても害はねぇよ。どうせ高専には入れないし」
「ほっとくとか無理!きゃ!あっちにもいる…」
いちいち蠅頭を気にしちゃいられないが、あまりに鈴が怖がって前に進まないので、伏黒は玉犬を放つ。蠅頭を捕まえてはばくばく喰う光景もそれなりにシュールだと思うが、鈴は安心したみたいだった。