第4章 呪術高専①
しん、と静まり返った高専の内部。
誰かを探すようにウロウロしている伊知地に、手持ち無沙汰な真希が声をかけた。
「伊知地さん、今日当番?」
「真希さん、あけましておめでとうございます」
正月当番の伊知地は丁寧に頭を上げた。真希も挨拶を返す。
「伊知地さん、誰か探してんの?」
「五条さんに埼玉の事件の子のことを頼まれていたんですが、医務室に居なくて…」
昨日の弱そうな子か、かいわれ大根みたいなと真希は思った。
「あー、恵が知り合いみたいだから、何か知ってるんじゃない?」
࿐༅ ࿐༅ ࿐༅
伏黒は床に寝転んだままあくびをした。
結局一睡もできなかった。一応毛布は敷いて寝たが、あちこち痛い。
体を起こして隣を見ると鈴はベッドですやすや眠っていた。
(いつまで寝てんだよ。もう8時だぞ)
「蓮見……」
体に触れて起こそうとして、五条の言葉を思い出す。
"いやらしいことしちゃダメだよ?"
体を揺すって起こすのは、別にいやらしいことじゃない。
だけど昨日のように甘い声で名前を呼ばれてしまったら?理性が飛ばない自信がなかった。
伏黒が迷っているとドアをノックする音が聞こえた。
五条ではないだろう、と思いながらとりあえずドアを開ける。
「伊知地さん?」
「伏黒くん、あけましておめでとうございます」
伊知地につられて、どうもご丁寧にと伏黒も頭を下げる。暇つぶしの真希も隣にいた。
「朝早くにすみません。蓮見鈴さんを探していまして。医務室にいなかったもので…」
「ああ、その…」
口ごもる伏黒。五条はともかく伊知地は常識人だ。寮の部屋に女子を泊まらせたという、この状況は説明しづらかった。
「んー、よく寝た〜〜」
久しぶりにすっきり目覚めた。鈴は体を起こして思いきり伸びをする。
「え?」
「うわ、恵、お前…」
驚く伊知地とドン引きする真希。メガネがない鈴には細かな表情は見えなかったが、右手で顔を覆った伏黒が困っているのはよくわかった。