第4章 呪術高専①
ふわふわして柔らかく、温かい生き物を簡単に手放すことはできなくて、伏黒はすやすや眠る鈴を腕の中で包んだままだった。
しばらくして、ドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた。
なんとなく訪ね人に心当たりがあって無視していたが、あまりにノックの音がしつこいので、鈴をベッドにそっと寝かすとドアを開けた。
「なんすか?」
「未読スルーしといて、なんすかじゃないでしょ?女の子連れ込むなんて意外とやるじゃん、恵」
ノックの主は五条。定番の目隠しをして、黒の上下。足元にはこれまた黒いキャリーケース。
「医務室に連れて行こうとしていたところです」
「もう施錠してるよ。硝子も明日ぐらいは実家に帰るんだって。それに僕も御三家に新年の挨拶しに行かなきゃうるさいしね。恵も行く?お年玉もらえるかもよ」
「行きませんよ。面倒くさい」
「じゃ、鈴ちゃんのことお願いするよ」
(お願いって、未成年に未成年まかせてどうするんだよ…)
「でもいやらしいことはしちゃダメだよ?」
「しねぇよ!」
ムキになって反論する伏黒に、五条は可笑しそうにくすくす笑う。
そして何かを思い出したようにポケットから物を取り出した。
「これ鈴ちゃんの新しいメガネだから渡しといて。
じゃ、シクヨロ〜」
「ちょっと…!」
戸惑う伏黒を横目に、手を振りながら彼は寮の廊下の先の暗闇に消えて行った。
(マジか…)
それは一晩このまま同じ部屋で過ごすということで。
伏黒はこの日、一睡もできなかった。