第4章 呪術高専①
鈴が急に睡魔に襲われたのは、伏黒が出してくれたホットココアを飲み切った直後だった。
うつらうつらと舟を漕ぎ始めた鈴の肩を叩く。
「蓮見、医務室に戻ろう」
「ん、待って……」
一度目を開けたと思えばすぐ閉じる。同じようなやりとりを3回繰り返して、伏黒は諦めた。完全に自分のミスだ。抱えていくしかない。
「ほら掴まれ」
力の入らない鈴の両手を無理矢理首に絡めさせる。
両腕から伝わるのは男の自分にはない柔らかい感覚。ふわもこ部屋着の素材も手伝って、なんだかふにゃふにゃしている。
おまけに抱き上げようとすると、頭を胸元に擦り寄せてきた。
「……伏黒くん…」
「…っ!」
幸せそうに微笑みながら名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。もやもやする胸の奥が。
学校での出来事を思い出した。シメる相手を探して、校内を歩いていた時のことを。
教室に男子数人が残って話をしていた。
「付き合うとしたら誰がいい?」
「あー、やっぱ蓮見かな。性格いいし、かわいいじゃん」
「それ田辺の前で言ってみろって」
「アイツ、マジ相手にされてねぇよな」
「いや、お前もな?蓮見ってガード固いじゃん」
「ガード固いのは絵里奈と帆花のせいだろ」
ぶっちゃけ、親友たちがうるさいせいで鈴に男子は近づけなかった。それに家まで尾けようとかストーカーまがいのことをした男子の末路は伏黒がよく知っている(ボコったから)。
ただ何人か彼女に想いを寄せる奴がいたのは事実。
容姿が麗しいからってかわいいと思うかどうかは、個人の主観に過ぎない。外見より中身の方が大事のはずだ。
伏黒は腕の中にすっぽり収まった鈴を見つめる。
(なんだよ、このかわいい生き物…)