第4章 呪術高専①
伏黒の寮の部屋は物が少なく整然としていた。生活感は何となくある。
「お邪魔します……」
その辺に座って、という伏黒に従って、丸いテーブルの前に正座した鈴はいつになく緊張していた。
(食わせるって言っても、これぐらいしかないんだよな…)
生活に不自由していないとはいえ、男子中学生の冷蔵庫の中身が充実しているはずはなく、伏黒はカップそばのアレルギーの欄をチェックするとお湯を注いだ。
テーブルの上にカップそばと割り箸を置く。
「ありがとうございます…」
「ん」
蓋を開けると湯気が立ち上る。鈴はふうふう息を吹きかけてから麺を口に運ぶ。
「…おいしい」
食べすすめていると、ゴーンとどこからともなく除夜の鐘が聞こえてきた。
本当ならこんなはずではなかった。
年越しはあの家で両親と一緒に年越しそばを食べているはずだった。きっと他愛もない話をしながら。
ぽたぽたと一度は引っ込んだ涙が流れてくる。
せっかく作ってもらったカップそばは涙の味に変わる。伏黒に作ってもらえて嬉しくないわけないのに。
「ごめんね……。もう泣かないから…」
それは伏黒だけでなく、両親へ向けた言葉でもあった。
二人がいなくても強く生きていかねばならない。もしあの世というのがあるのなら、二人とも心配して成仏できないかもしれないから。
伏黒は何も言わず、ただ鈴の隣に座っていた。