第2章 出会い
転校して二週間が経った。
同じクラスの女子達はみんな親切ですぐに友達もできたけれど、ごく一部の男子からはちょっとした嫌がらせを受けるようになっていた。
その日も休み時間に階段の所で友達と話していると、例の男子達がやってきた。
「おっ、ブスメガネじゃん」
「もうやめなよ。鈴、ブスじゃないし可愛いじゃん」
「そうそう。
田辺、もしかして鈴のこと好きなんじゃないの〜?」
一緒にいた友達が主犯格の男子をからかうと、彼はニヤニヤしていた顔を一変させた。
「そ、そんなわけあるか!このブサイク!」
ドンと思いきり隙だらけの背中を強い力で突き飛ばされる。当事者の男子の息を呑む音と、周りの女子達の悲鳴。
「きゃ…」
人一倍運動神経は悪い。体がふわっと浮いて真っ逆さま階段を転がり落ちる、と思ってぎゅっと目をつぶった。
(………?)
メガネが外れてカラカラと階段で音を立てた。怯えていた衝撃や痛みはない。
恐る恐る目を開けると別の男子生徒に腕を掴まれてしっかり身体を支えられていた。
それは長いまつ毛できれいな瞳の持ち主だった。後ろの席だけどまだ挨拶以外に言葉を交わしたことがない、伏黒恵くん。
実は学校中の不良や半グレをシメまくり、彼こそが不良の中の不良という噂を聞いていて、鈴自身も距離を空けていた。
「ヤバイ!伏黒じゃん!!」
伏黒の姿を見て突き飛ばした男子と取り巻きは一目散に逃げていく。伏黒は「あいつら…っ」とチッと小さく舌打ちをした。
「…大丈夫か?」
「あ、はい」
(伏黒くんって…。私……)
怖い人だと勝手に勘違いしていた。その事実がすごくショックだ。階段から突き飛ばされたことよりも。
伏黒は階段下まで降りてメガネを拾うと、鈴に手渡す。メガネのレンズには少しヒビが入ってしまっていた。
「こっちは大丈夫じゃないな」
「ううん!平気!伏黒くん、ありがとう」
鈴はメガネを受け取ってにっこり笑う。深緑色の瞳と目が合った。
(…ブサイクじゃねぇじゃん)