第2章 出会い
少し寒さが感じられるようになった11月末。浦見東中、毎年恒例のマラソン大会の時季である。
「よーし、3年は蓮見で最後だな!!」
「鈴!お疲れ〜。頑張ったね」
「ハァ、ハァ…、マラソンなんて大嫌い…」
帆花に労われながら、座り込んで呼吸を整える。
小さい頃から人一倍運動ができなかった。長距離も短距離もいつも最下位。どんくさくて球技も無理。
「ほのちゃんはいいな…。走るの早くて」
帆花は早々と陸上の特待生として、高校の推薦入試に合格した。うらやましいな。私もそんな才能があればよかったのに。
「いいの、鈴は。そんな所も可愛いから」
「遠回しにばかにしてない?」
「ないない!運動部でもないのに、ダントツ一位とかいう伏黒なんかよりよっぽどいいよ!」
「伏黒くん、一位だったの?」
「そーよ、ほんと可愛げないわ」
女子と男子は時間差スタートだったから、ゴールした所は見ていない。帆花いわく、後続を寄せつけないダントツで、息も切らしておらず余裕しゃくしゃくだったらしい。
(すごいなぁ…。おめでとうって言いたい…)
次の授業まではまだ時間があって、伏黒を探しながら運動場を歩く。すると校舎の裏で伏黒によく似た後ろ姿をみつけた。
「伏黒くん!マラソン一位だったの?おめでとう…、きゃあ!?」
満面の笑みで駆け寄ってきた鈴は伏黒の目の前で派手に転んだ。
「大丈夫か?」
「私、本当に運動苦手で…。すごいね、伏黒くん」
「いや…」
運動が人よりできるのは、呪術師としての才能のひとつだと思う。真希ほどのフィジカルギフテッドでないにしろ、呪霊と戦う上で必要なものだ。だからこの結果は当然と言える。
そんなことない、と言いながら、転んだままの蓮見の腕を掴む。本当にすごいのは苦手なことも諦めずに頑張れることだと思うけれど。
(軽い…)
華奢な彼女は少しの力でいとも簡単に引っ張り上がる。膝を少し擦りむいていた。
「あ、ありがとう」
蓮見は目を潤ませて恥ずかしそうに笑う。どうして俺の前でこんな顔をするのだろうか。