第8章 不可逆的欠損
私は、朝見つけたものを鶯丸に見せることにした。
“それ”は、私が持っている中で、一番上質な生地、それこそ神事などに使う布で包んである。
どんな小さな傷も、穢れもつかないように。
今朝、審神者部屋のすぐ隣の部屋で――私の羽織にくるまれていたのを見つけてから、ずっとそうしている。
私は鶯丸に差し出すように、布を広げて見せた。
「昨日、今剣が眠っていた場所に……」
"それ"は、折れた短刀だった。
柄の近くで、切り落とされたかのように刀身が真っ二つになっている。
まるで不揃いな二本の刀剣だ。
見慣れた下緖の赤は、どうしても彼の瞳を思い出させてしまう。
でも、そんなことは認められない。
戦闘など起きていないし、なにより彼は、ずっと前に“私が顕現させた。”
「何度も……手入れしたんだけど……」
自分の声と手が震えているのがわかった。
数える程度だが、重症を負った男士を手入れしたこともある。
そのときも、不安と霊力の消費に震えが止まらなかったが、今はそれを上回る。
手入れを施すが、霊力が伝わらないのだ。
刀身に流れない。ただ無駄に、私の体からなくなっていくだけで。
「なんの……反応もなくて……」
「……主」
肩に手を置かれ、びくっと反応してしまう。
諭すような、ひどく優しい声で鶯丸は言った。
「政府に連絡した方がいいんじゃないか」
それは、予想外に現実的なアドバイスだった。
「……そう……だよね。わかった」
そんなふうに返したところまでははっきり覚えている。
そのあとの記憶は、現実感がなく、どこか他人のもののように思えた。
私はすぐに政府に連絡した。どういう説明をして、どういう説明が返ってきたのか。
そういった細部はよく覚えていない。ただその日のうちに担当者が来ることになった。
妙に頭が冴えていた。