第8章 不可逆的欠損
政府から人が来たとき、日はまだ高く照っていた。
今日はもうすぐ曇りになる設定だ。
担当者を名乗る男は見たことがなかった。
てっきりいつもの担当官が来るものとばかり思っていたので、いくらか落胆を覚える。
私は朝連絡したときと同じように、これまでの経緯を説明した。
担当者は端末を操作しながら、本丸を巡回した。なにを確認しているのかはわからない。
そのうち審神者部屋に戻り、聞いたこともない単語を並べだした。
「特定回収措置?」
「はい。刀剣の保護を目的として、審神者の手入れ等が及ばないケースなどに、政府で一旦預かる措置です」
あまり感情も温度もない声で担当者は言った。
聞けば、同様の事例が起きているという。
私が質問を溢れさせようとすると、「詳しいことは調査中です」と遮られてしまった。
“それは折れているのですか”
そう聞かずにはいられない自分と、どうしても聞きたくない自分がいた。
だから担当者がなにも教えてくれなかったことに、どこか空恐ろしくも安心を覚えた。
今剣に永遠に会えなくなったわけではないらしい。
今は、まだ。