第8章 不可逆的欠損
『ぼくたちはしょくじをひつようとしません』
そんなふうに言われたときから、今剣を“怖い”と思ってしまう自分がいた。
あんなにたくさん、笑顔の時間をともにしたはずなのに。
急に知らない誰かに思えて、恐怖を抱いてしまうなど。
自己嫌悪に心が塗りつぶされる。
でも、関わりを拒否されては、手も足も出ないじゃないか。
私が悪かったのなら、教えてほしいし、謝らせてほしい。
それさえ傲慢なのだろうか。
奥底で醸成され続けていた、やり場のない怒りが顔を出し始めたとき、今剣が言った。
「いっしょにねてもいいですか?」
今剣の口から出た言葉は、予想外のものだった。
あまりに予想の斜め上すぎて、
「……え?」
頭を殴られたような衝撃を覚える。
どこか甘えるような、ほんの少しの懇願がにじむ声音だった。
急にどうしたのだろう。理由が思いつかない。
一緒の部屋で、何人かで眠ったことは何度もあった。
けれど誰かと二人で、というのは一度もない。
“この今剣”と二人、同じ部屋で眠るというのは、やっぱり怖いと思ってしまった。