第8章 不可逆的欠損
「今日はメンテナンスなんだろう? 仕事はほどほどにしてゆっくり休むといい」
「うん、ありがとうね」
サボる、というか休むことにかけては明石といい勝負の鶯丸から言われると、自然と笑みが浮かんでしまう。
鶯丸は小さく頷きを返し、廊下を歩いていった。
お茶はもう淹れてしまったのだろうか?
そういえば鶯丸は今日、内番を割り振られていたっけ。
「…………」
会話が終わってしまったことに、鶯丸の姿が見えなくなってしまったことに、無性に悲しくなっている自分に気がついた。
鶯丸のあたたかくて、優しい声が、まだ耳の奥で響いていた。
誰の気配も、誰の声もしなくなった廊下はがらんとしていて、余計に胸の奥から淋しさが湧き出てくる。
私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。